耐震補強に関する講習会に参加してきました。
何度となくこういった類の講習会は参加していますが、耐震補強の工事自体の事例も多くなってきたので、そのノウハウもずいぶんと蓄積されてきています。
かく言う私も、独立前に耐震補強を数件手掛けていますが、実際にやってみると大変な工事です。耐震診断(精密診断)をして補強計画を策定し、耐震強度をいくらまで上げるというふうにシミュレーションをしていきます。
耐震診断を行うと、昭和56年以前に建てられた建物の場合、1.0で合格となる耐震強度が、0.7を下回ることもしばしばです。これは倒壊する恐れがあるというふうに表示されてしまいます。
私が仕事をしている京都南部エリアには、いわゆる民家造というか、農家の典型的パターンの間取りが多く存在します。玄関が土間で、そのまま通り庭のような構造になっていて、奥が台所、手前がはた部屋、西側には田の字型の四間取り和室があります。南北の風通しを良くするため、建具類はすべて外せるようになっており、東西方向にはほとんど壁がありません。差鴨居と貫で水平力に抵抗することになります。基礎もなく、礎石の上に載っているだけです。地震よりも台風の被害を心配し、大きな牛梁をのせさらに重厚な瓦屋根で重しをかけています。
すごく立派な家で、まさに台風なんかではびくともしないのでしょうが、耐震診断をすると0.7どころか0.2とかいう数字が出ます。ところが、実際にそれが弱いかというと、必ずしもそうではありません。耐力壁というここ数十年の考え方で評価すると弱いということになりますが、実際に何百年も前から工夫を重ねてきた工法ですからその実績があります。たとえば差鴨居や貫の強度は、評価する方法が確立されていないですが、木造ならではの柔らかい構造ですから、免震効果やエネルギーを吸収する効果があるといわれています。
十把一絡に耐震強度を評価することは、日本の文化を否定することにさえなります。そこら辺を考えると、耐震補強というのは大変難しい仕事だと思います。
一方で、昭和40年前後に建てられたいわゆる建売住宅について耐震補強を検討されることも多いかと思います。このころの建物は、残念ながら最も品質が悪い時期といわれています。建物の需要が圧倒的にたくさんあり、品質の低いものが次々に建てられていたからです。基礎はありますが、鉄筋が入っていないことが多いですし、入っていても、現在の耐震基準で設計したものに比べると、ないに等しいほどのものです。また、田んぼや畑を宅地に転用して建てているケースも多く、建物以前の問題もあります。こういった建物の上物だけをいくら耐震化したところで、その下の地盤・基礎に不安があれば、それは無駄な投資になってしまうかもしれません。
耐震補強は、いろいろなことを考えて総合的に判断しないといけない、非常に高度な仕事だと思います。
なんとなくカンだけで、ここに筋交いを入れて補強しときましょうとか、金物を増やしときましょうなんていうことほど意味のないことはありません。下手に補強をすると、全体のバランスを壊してしまい、地震力が集中してしまって倒壊につながる事さえあります。
政府が、住宅の耐震化率を上げるために、さまざまな制度を導入していますが、そんな簡単な話ではありません。